東京地方裁判所 昭和55年(ワ)12444号 判決
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【判旨】
一原告は旅行業務等を業とする株式会社阪急交通社の従業員であること、阪急交通社は被告に対し昭和五三年八月一日から同月二〇日までの間のアフリカ旅行を販売したこと、被告は右代金中六〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右アフリカ旅行の代金総額は一四〇万〇二〇〇円であることが認められるから、被告は阪急交通社に対し旅行残代金八〇万〇二〇〇円の支払義務があることは明らかである。
二原告は、昭和五四年九月五日右残代金を被告に代つて弁済した旨主張し、<証拠>によれば、阪急交通社は、昭和五四年九月三〇日付、同年一〇月一八日付、昭和五五年五月二四日付で、いずれも阪急交通社内幸町営業所として被告に対し右残代金支払いを催告し、昭和五五年一〇月一三日に至りはじめて「今般原告から弁済を受けた」旨通知していることが認められるのであつて、これらの事実に照らせば、右原告の供述はたやすく措信しがたく、原告が被告に代つて弁済したとしても、それは早くても昭和五五年五月二四日以降と認めざるをえない。
三被告は、原告に対し右未払代金は東京、マジユロ間の旅行に関する損害賠償問題が解決するまで支払わない旨を告げたと主張し、右主張は原告による残代金の弁済が被告の意思に反するものであることをいう趣旨に解されるので、次に被告主張の東京、マジユロ間の旅行に関する原告、被告間のいきさつについて検討する。
1 マーシャルアイランズ東京オフィスが、被告の紹介で原告から、昭和五四年五月二三日から二七日まで、東京、マジユロ間往復三名の航空券を購入したことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
原告は、右旅行に関し、出発直前に旅行手続(パスポート申請、ビザの取得を含む)を依頼されたため、成田サイパン間の航空機の座席は予約できたものの、サイパン、マジユロ、成田間の便の座席は申込みをしたまま座席が予約できていないウエイティングという状態であつたのに、航空券上座席がとれたというオーケーの表示をしておけば現地で優先的に考慮してもらえることを見込んでオーケーと記入し、しかもそのことを被告らに説明しないまま、航空券を発券した。被告らは、成田空港を出発する直前に航空機内で帰りの便の座席が予約されていないことを知つたがそのまま出発し、現地で帰りの便をとるため航空会社と交渉したが満席のため座席をとることができず、四日間おくれて帰国した。そのため東京オフィスと同行した平岩との間に紛争が生じ、東京オフィスは同年六月阪急交通社及び原告に対して損害賠償を請求した。原告は迷惑をかけたことを詫び、阪急交通社あてに請求書を出すよう要求したので、東京オフィスは昭和五四年六月二九日、八七万九一六三円の請求書を提出した。ところが阪急交通社では、被告が本件残代金を支払わない限り考慮の余地がないという方針で、前記のとおり請求をくり返し、交渉が進展しなかつた。そこで東京オフィスは、被告に対し、平岩、原告を紹介した責任上、被告の責任で解決するよう迫り、被告が阪急交通社に支払うべき残代金の分を東京オフィスに支払うよう要求した。
以上の事実が認められる。
2 右事実によれば、原告は直接の担当者として、阪急交通社は事業主として、帰りの便の座席が予約されていないのに予約ずみであるとして航空券を発券したことによつて東京オフィスに生じた通常の損害を賠償すべき義務があるというべきで、東京オフィスの阪急交通社及び原告に対する賠償請求額並びに被告に対する責任追及の当否、被告がこれを理由に本件残代金の弁済に応じないことの当否は別として、このような紛争の中で原告が被告に代つて阪急交通社に対し本件残代金債務を弁済することが被告の意思に反することは、明らかである。
四そうすると、原告の阪急交通社に対する弁済は無効であり、右弁済が有効であることを前提とする原告の本訴請求は、当事者双方のその余の主張事実について判断するまでもなく失当として、これを棄却すべきである。
(大城光代)